【S&Mシリーズ】5作目「封印再度」を読んだ感想

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封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)

岐阜県恵那市の旧家、香山家には代々伝わる家宝があった。その名は、「天地の瓢」と「無我の匣」。「無我の匣」には鍵がかけられており、「天地の瓢」には鍵が入っている。ただし、鍵は「瓢」の口よりも大きく、取り出すことが出来ないのだ。五十年前の香山家の当主は、鍵を「瓢」の中に入れ、息子に残して、自殺したという。果たして、「匣」を開けることが出来るのか?興味を持って香山家を訪れた西之園萌絵だが、そこにはさらに不思議な事件が待ち受けていた。

S&Mシリーズの5作目となる作品で、笑わない数学者から1年が経過しています。ここまでの5作の中では一番ページ数が多く、理系な密室トリック&パズルもラブコメも楽しめるボリュームたっぷりの内容となっています。

密室トリックもなるほど!と思える納得のしかけでした。壺(つぼ)と匣(はこ)のパズルはよく考えられたもので、最後に種明かしされたときは思わず感嘆の声を漏らしてしまいました。

「Who Inside」という英題も秀逸です。

その他の事件が楽しすぎ!

本流の事件のほうもしっかり練られたもので充実した内容でしたが、それを上回る事件がいくつか発生します。

「萌絵の好感度が急降下」事件

これまでも県警本部長の姪という立場を利用して、趣味の謎解きのために事件の情報を入手することはあった萌絵。

でも、今回はちょっとやりすぎた感があります。事件の情報を引き出すために、自分に対し好意を抱いている男たちを利用するだけ利用するというイヤな女に成り下がっていました。さすがの犀川もダメ出しするほどで、ワガママなお嬢様キャラを逸脱して高感度は急降下。あげくの果てに色仕掛けまで使う始末で、あまりに露骨な言動に嫌悪感さえも抱くレベルでした。まあ、萌絵の「精神的な不安定さ」というか「未熟さ」は伝わってきましたけども、やはりちょっと度が過ぎていたかなという印象です。

「富豪刑事www」事件

前述の流れで、萌絵が事件の情報を得るために刑事のフリして事件現場へ紛れ込みます。その際、愛車の4000㏄ツーシーターのアルファロメオ(車種は不明)で、現場へ乗りつける様がまさに富豪刑事だなと思った次第であります。すみません、それだけです。

「血液の病気とご褒美」事件

重大な事実がカミングアウトされます。詳細については読んでからのお楽しみということで。

「犀川マジギレ」事件

いつも冷静で頭脳明晰の犀川がめずらしく取り乱し、そして最終的にブチギレます。犀川の内面が浮き彫りになった貴重なエピソードで、犀川ファンは必見です。

「佐々木睦子は区役所より偉い」事件

萌絵のもうひとりの"最強の保護者"である、叔母の佐々木睦子が満を持して登場。勝ち気で上目線なのに嫌味な感じはしないという、魅力的かつ強烈なキャラでぐいぐい出しゃばってくる様が圧巻です。

犀川が苦手とするタイプのようで、県警本部長である西之園捷輔の組織力を上回る"個"の力を見せつけられました。

おそらく森博嗣のコアなファンなら、犀川がこの手のタイプを苦手とする理由については、ピンとくるものがあろうかと思われますが、S&M以外のシリーズが関係してくることもあり、ネタバレになりそうなのでここでは伏せておきます。

「ダイ○ング・メッセージ」「赤ちゃんができたらどうする?」「ごちそうさま」事件

今回は名言(迷言?)が盛りだくさんで、読者を飽きさせません。

クリスマス・イブというシチュエーションもあり、とくに「赤ちゃんができたらどうする?」には一瞬ドキッとしました。

総評

よくよく考えれば、とても悲しい事件であるはずなのに、その他の珍事件が楽しすぎて本流の事件がどうしてもかすんでしまうほど、お楽しみ要素がつまったファンサービス回だったような気がします。

実際、事件の当事者の心理的描写はあっさりしたものですし、真相は深く語られず憶測で済まされているあたり、そのあたりはあまり重視されていないのかもしれません。

とはいえ、これまでの作品に比べ、ページ数が多いのも納得の充実した内容であることには間違いありません。犀川と萌絵以外のレギュラーメンバーもそれなりに絡んできますし、実はあの人も登場してたりと、このシリーズが肌に合う方にとって本書は決して読んで損はない作品であります。

特に犀川&萌絵のファンは必読の1冊となっておりますので、どうかお見逃しなく!

封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)