【S&Mシリーズ】7作目の「夏のレプリカ」を読んだ感想

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夏のレプリカ (講談社文庫)

夏のレプリカ (講談社文庫)

T大学大学院生の簑沢杜萌(みのさわともえ)は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられた。杜萌も別の場所に拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧(もうろう)とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは?『幻惑と死と使途』と同時期に起こった事件を描く。

S&Mシリーズ7作目となる作品です。「すべてがFになる」で真賀田四季が言っていたように「7は孤独な数字」というだけあって、本書はこのシリーズの中では変わり種となっています。

 

犀川&萌絵ではなく、杜萌中心に話が進む

本書は偶数章のみで構成されており、前作の「幻惑の死と使途」とペアとなっております。幻惑の死と使途サイドで萌絵が事件解決に乗り出している間に、別の場所で簑沢杜萌が巻き込まれた事件について描かれております。

したがって、主に萌絵の親友である杜萌を中心に話が進みますので、残念ながら犀川と萌絵の出番は少なめです。

親友の萌絵と杜萌が同時に別の事件に巻き込まれるという意味深な設定ではありますが、単に「幻惑の死と使途」と同時期に起きた事件というだけで、内容がリンクしているわけではありません。ただ、犀川と萌絵のやりとりの中に、「幻惑の死と使途」既読を前提とした記述がみられますので、本書を読むなら先に「幻惑と死と使途」を読んでおいたほうが楽しめると思います。

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理系ミステリィ…じゃない

これまでは理系の著者らしく、トリックや登場人物の理系色が強く出ていました。今回は理系は鳴りをひそめ、森博嗣らしからぬ普通の?ミステリィとなっております。トリック自体に目新しさはありませんでしたが、このシリーズのこれまでの作品で使われたトリックとはちょっと趣向が異なるという意味で新鮮味はありました。

 

佐々木睦子の出番多し

犀川と萌絵の出番が少ない分、なぜか萌絵の叔母の佐々木睦子の出番が多かったです。個人的にはお気に入りキャラなので、睦子の出番が多くて嬉しいです。睦子が出てきたときは、もしや今回は睦子が事件を解決か?と少し期待したものの、それはまったくの見当違いでした。

いつもどおり萌絵が事件に首を突っ込み、睦子ゆずりの?おせっかいな性格で持って事件解決に乗り出します。幻惑~のときと同様、本書でも萌絵が単独で犯人を言い当てるなど、なかなかの活躍ぶりです。

 

ラストの萌絵と杜萌のチェス勝負がイイ!

幻惑~でも喫茶店でエアーチェスを披露したふたりですが、本書のラストでは本物のチェス盤を使って真剣勝負をします。

ラストのこのシーンはなかなか印象的なものでした。テンポがよく臨場感のある描写で、文章を読んでいるというよりまるでドラマや映画のワンシーンを見ているようで興奮しました。

 

Replaceable Summerのほうが主題にふさわしい?

夏のレプリカというタイトルは読後も意味が分かりませんでした。でも英題のReplaceable Summerのほうは、読後に意味を調べて「replace(置き換え)+able(可能な) summer(夏)」という意味だということがわかり納得しました。こちらのほうが本書の内容をより直接的に言い表しており、英題のほうがしっくりきます。

 

総評

本書で使われるトリックは個人的にはあまり好みではないタイプのものでした。見事にダマされはしましたが、「ああ、そのパターンか…」と思っただけで驚きは少なかったです。

あと、一番気になる杜萌の兄の真相についてうやむやなままでしたし、伏線っぽい言葉を何度か出して引っ張ったわりには、結局何の説明もなくそのまま放置。スッキリしないまま終わってしまったのが残念でした。

とはいえ、よかったところもありました。萌絵と杜萌のチェス勝負はとてもよかったですし、ラストのせつない雰囲気もよかったです。出番は少なかったものの犀川と萌絵のいつもの夫婦漫才的なやりとりも楽しめたので個人的には満足です。

幻惑の死と使途とワンセットで読むことをお勧めします。

夏のレプリカ (講談社文庫)

夏のレプリカ (講談社文庫)