【S&Mシリーズ】8作目の「今はもうない」を読んだ感想

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今はもうない (講談社文庫)

今はもうない (講談社文庫)

避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で一人ずつ死体となって発見された。二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が…。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。

S&Mシリーズ8作目となる作品です。「清冽な」という形容詞がピッタリで、読後感の良さは間違いなくシリーズナンバーワンだと思います。

 

現在と過去のふたつのパートが交互に描かれている

犀川と萌絵が登場する現在パートと、笹木という冴えないおっさんの一人称で語られる過去のパートに分けられています。

現在パートにおいては、例によって犀川に対し萌絵が奇妙な事件の詳細を語るのですが、今回は謎解きやら事件解決が目的ではありません。萌絵自身がすでに真相に気づいていおり、しかも過去の終わった事件であって、いまさら蒸し返す必要がないというわけです。

もちろんこのシリーズの醍醐味である犀川と萌絵のかけあいはしっかり楽しめますのでご安心ください。今回は特にダジャレというかジョークが豊富で、思わず声を出して笑ってしまうレベルでした。「だっての終止形」みたいなのが大好きです。

過去パートは笹木という初登場の、しかもあまり紳士的とはいえない下心丸出しの男目線ということもあり全く感情移入できませんでした。笹木のひとり語りや見当違いの推理がけっこううっとおしいので嫌気がさしてくるかもしれません。ただ、最後まで読めば、無駄に思えたこれらの描写の意味は一応わかります。でも、あまり重要なものでもないので笹木のひとり語りや無意味な推理などは斜め読みしても問題ないと思います。

 

シリーズ初の叙述トリック

本書はいわゆる叙述トリックが用いられています。勘のいい方はすぐに気づいてしまうかもしれませんが、とにかくミスリードのオンパレードということもあり、鈍感なわたしはまんまとダマされました。

再読時にはいくつかヒントらしき描写も見つけましたが、初読の際はまったく気がつきませんでした。ちょっとそれはアンフェアじゃない?と思うほどミスリードの記述が多いのですが、結果的にダマされてよかったと思ってます。そのほうが終盤のネタばらしのときの衝撃が大きいですし、初読とは違った視点で再読も楽しめましたので得した気分です。とにかく何も考えずに読んできれいにダマされたほうが幸せだと思います。

 

読後感の心地良さはシリーズナンバーワン!

どんでん返しも十分に楽しめましたが、ラストも非常に秀逸でした。とてもきれいにまとまっており、読後はとてもすがすがしい気分にさせてくれるものでした。ラストに関してはこのシリーズナンバーワンといっても過言ではないものでした。タイトルも含めすべて計算されており、「よくこんなきれいにまとまった話を書けるなぁ」と感心しました。

 

ブランディ(ブランデー)をストレートで飲みたくなる

シリーズ通して犀川と萌絵のふたりはよくコーヒーを飲みます。しかも美味しそうに。なので、このシリーズを読んでいると無性にブラックのコーヒーが飲みたくなります。実際、コーヒー飲みながら読んでたりします。今回はブランディをストレートで飲むシーンが多たったため、すっかり影響されてしまい、しばらくブランディをストレートで飲むクセがつきました。このエントリー書くために再読していたら、また飲みたくなってきました。

※森博嗣は英語のつづりの語尾が”Y”で終わるカタカナ英語は語尾を”ー”ではなく”ィ”と書きます。例えば、エネルギーやミステリーをエネルギィ、ミステリィと書きます。本書でもブランデー(brandy)はブランディと表記されてますので、それにならいブランディという表記にしました。

 

総評

今回はちょっと変則的なストーリィでした。話のまとめかたはいつものお決まりのパターンのときより秀逸だったと思いますし、犀川と萌絵のかけあいも健在でしたので満足しています。

ちょっぴり悲しい事件であり、さびしさを感じるものの、時間の経過とともにきれいな思い出に変わっていく。そんな心地良さを感じられる、非常に読後感のすばらしい1冊です。読後にぜひタイトルの意味を噛みしめてください。おすすめです。

今はもうない (講談社文庫)

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