新聞業界のタブーに迫る「小説 新聞社販売局」を読んだ感想

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小説 新聞社販売局

小説 新聞社販売局

全国紙の元社会部記者が新聞業界「最大の暗部」を描いた、衝撃ノベル! 新聞の原価は購読料の6割!? 新聞は「折り込み広告の包み紙」!? 「押し紙」を巡る新聞販売店主との激しい攻防、知る人ぞ知る「大幅値引き」、まさかの「公称部数の水増し」……。さらに、「天ぷらカード」、「抜き取り」、「ゴミ出し」、「預け」、「ピンピン」、「ピンサン」と次々出てくる隠語の数々。はたして「闇」はどこまで深いのか?

新聞社が販売店に買わせる、必要以上の部数の新聞”押し紙”。過去に週刊誌に記事が掲載されたこともあり、広告に携わる人の間では押し紙という言葉は広く知れ渡ることとなりました。

新聞社は絶対に存在を認めない押し紙の問題を筆頭に、外からは見ることのできない新聞社内部の問題など、新聞社が抱える様々な問題について、内部事情をよく知る元新聞記者である幸田泉が、自身が編集局から左遷されて過ごした販売局での経験をもとに綴った小説です。

 

半沢直樹風の企業小説仕立て

新聞社の販売局で退職までの2年間勤務した元新聞記者が、自らの経験をもとに書いた小説だけあって、暴露本的側面もあります。

一般的ではない業界用語を多用しておりますので、新聞業界に携わったことのない方には少し読みずらいかもしれませんが、その点を除けば企業小説として普通に楽しめます。もちろん、業界用語に理解のある方であればスムーズに読み進めることができると思います。

作風は池井戸潤を意識したのか、半沢直樹風に書かれています。百戦錬磨の直木賞作家の作品と元新聞記者のデビュー作を比べるべきではありませんが、作風を似せられるとどうしても無意識のうちに比較してしまいますし、池井戸潤クオリティに慣れている者としては、レベルの違いが気になり「池井戸潤ならこういう書き方はしないよな~」とか、つい余計なことを考えてしまいます。まあ、つい荒探しをしてしまうというだけで、けっして話がつまらないわけではありませんが。

 

押し紙は存在するのか?

「”押し紙”は存在するのか?」というテーマは、新聞広告や折込チラシに携わる方にとって興味深いものであると思います。

読売新聞の押し紙疑惑

2009年に週刊新潮が読売新聞の押し紙問題を取り上げました。告発した新聞販売店主によると、新聞社からは実際に配達する新聞の部数より2.5割も多く送られてきており、配達されない新聞の卸代金も請求されていたとのことでしたが、その後、読売新聞は新潮社と執筆者を相手取り名誉棄損で提訴し、最高裁までいった結果2013年に読売側の勝訴が確定。新聞販売店が実際の配達部数より多く新聞を買い取っていることは証明されましたが、それを読売新聞が強制したことについては立証できませんでした。

部数の水増しの事実は明らかになったものの、押し紙(=買取を強制)は認められず、白ではないけど黒とも言い切れないグレイな判決となりました。

こちらの「主要全国紙の朝刊販売数変移」のグラフを見てみると、ちょうど2013年後期に読売の販売数が急に減っております。裁判は読売側が勝訴していますが、新聞販売店が過剰に新聞を買い取っていることは証明されましたので、あわてて過剰な部数を整理した結果かなと勘ぐってしまいますが、真偽のほどはわかりません。

 

朝日新聞が公正取引委員会より注意を受ける

最近では、朝日新聞が押し紙に関して公正取引委員会より注意を受けました。

現代ビジネスの記事(ちなみこの記事はこの小説の著者である幸田泉によって書かれていたりします。)

この注意も違法行為を認定したわけではなく、現段階ではグレイ判定となっておりますが、「改善しなければどうなるかわかるな?」と公取委に脅されているようなものですね。

なぜ朝日新聞だけ?という疑問が沸きますが、朝日新聞はことあるごとに安倍政権叩きをしていますので、内閣府の外局として置かれている公取委を通じて報復を受けたのではないかという意見もありますが真偽のほどは定かではありません。

ちなみに、あくまでも小説として書かれている本ですが出版後、著者は古巣の50代以上の「定年までの残り僅かな時間を逃げ切りたい人」からは、「こんな暴露本出しやがって」と非難を浴びているようです。(インタビューより)

 

もし押し紙が実在するとどうなるのか?

仮に押し紙が実在するとして、その存在が明るみに出た場合、新聞社は発行部数の訂正を余儀なくされます。

そうなると販売店に卸す新聞の部数が減ることによる売上減と、新聞広告の価値が下がることによる広告収入減のダブルパンチとなり、さらに広告主から損害賠償請求の訴えを起こされるリスクを伴います。こうなった場合、新聞社が被る損害の大きさは計り知れません。

そのため新聞社としては、例え存在していたとしても絶対に押し紙の存在を認めるわけにはいかないというわけです。

 

著者(幸田泉)の古巣はどこの新聞社?

個人的にこの小説で一番の謎は「モデルとなった著者の古巣(小説内では大和新聞)はどこの新聞社を指すのか?」ということです。

小説の中身とは関係ありませんが、気になったので読後すぐに調べてみました。

いくら検索しても古巣の固有名詞が出てこないので、小説の内容をもとに古巣の新聞社(全国紙)を推測してみたいと思います。

いくつかある小説の中のヒントから、2つ拾い出しました。

  1. 主人公が勤める大和新聞社とは別の新聞社が新聞販売店より訴訟を起こされ敗訴

  2. 大和新聞社は全国に販売網を持つ

実際にあった福岡販売店訴訟で敗訴したのは読売新聞であることから、大和新聞は読売以外の新聞社ということになります。

地方紙を除いた場合読売と朝日は全国的に高いシェアを維持しており、全国に販売網を持っていると言えます。他の全国紙の毎日・日経・産経は、地域によってシェアが極端に低いところがあり、全国に販売網を持つとは言えませんので、2番目の条件に該当するのは読売と朝日となります。

よって、2つのヒントから推察するに大和新聞とは朝日新聞のことであり、著者の幸田泉の古巣は朝日新聞であるといえます。

 

総評

新聞社をdisる話ばかりではなく、新聞配達の現場での思わず泣けてしまう心温まるエピソードもあり、このあたりは著者の新聞に対する愛を感じました。

内容は万人受けする勧善懲悪もので、わかりやすくてよいのですが、悪役に対する主人公の復讐がちょっとやりすぎ感があったり、主人公が同性愛者であることを匂わす無意味な描写があったりして、いまいち主人公に感情移入できないのが残念でした。

最終的に主人公は無事復讐を遂げ、ハッピーエンドで幕を閉じますが、肝心の押し紙の問題に関しては問題定義にとどまっており、この問題は未解決のまま終わります。

著者本人も「一新聞記者にはどうすることもできない問題」とインタビューで語っているとおり、個人の力ではどうにもならないことを暗喩するために、あえて未解決のままにしたのかもしれないと思いました。

著者も「業界関係者に読んでほしい」と言っているように、新聞業界に関係する方はぜひご一読ください。おすすめです。

小説 新聞社販売局

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