岡嶋二人の小説「クラインの壺」を読んだ感想

      2017/04/08

ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!

1989年に井上泉と徳山諄一のコンビによって書かれた小説で、この作品が岡嶋二人の最後の作品となっております。

 

クラインの壺とは?

メビウスの輪の四次元バージョンのもので、3次元で無理やり表現すると壺のような形をしているため英語では「Klein bottle」と呼ばれています。

メビウスの輪のように表と裏の区別がなく、一方向に進んでいくと表を進んでいるつもりがいつのまにか裏にいてまた表に戻るという不思議な筒でできています。

クラインの壺-Wikipedia

 

SF設定下でのミステリー

J.P.ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」に出てくる転送システム(意識や感覚だけを通信技術によりはるか遠く離れた場所に移してあたかもその場にいるかのように体感できるシステム)や映画マトリックスのコンピュータが作り出した仮想現実のように、完全に現実と区別がつかないVR(ヴァーチャルリアリティ)を体感できる「クライン2(K2)」と呼ばれる装置が登場します。

全身を包むスポンジラバーと呼ばれる物質により人の皮膚と直接情報をリアルタイムで入出力することで、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感すべてを完全に再現してしまうとんでもない装置です。しかも、K2が作り出したVRに出てくる人物もかなり高度なAI技術によって再現されており、こちらも完全に現実の人間と見分けがつかないようになっています。

今でこそAIはリアルな人間に近づいてきており、この点に関してはSF色は薄まっているといえますが、五感すべてを完全に再現できるようになるにはあと何年かかるかなんて想像もつきません。

ましてやこの小説が書かれた1989年なんてAIどころかインターネットもまだ一般的ではない時代でしたし、作中でも言及されていますがパソコンの記憶容量が1MBとかの時代らしいですから、K2みたいな超高性能VR装置がいかに現実味がないかがわかります。

そんなありえないSF設定を利用してミステリーが展開されていきます。

 

ここがおもしろい

アーケードゲーム機の試作機としてクライン2を体験する主人公が、ある不審な出来事をきっかけにクライン2を開発した会社「イプシロン・プロジェクト」を疑い始めます。「本当にこれはただのゲーム機なのか?」調べを進めていくうちにますます深まる疑惑。そして、イプシロン・プロジェクトの正体を暴くべく極秘の研究施設へ潜入を試みる…。

終盤のこのあたりの展開がなかなか緊迫感があって楽しくて、さらにそのあとに思わぬ展開が待っています。

いったい何がリアルで何がVRなのか?リアルとVRの境界があいまいになり混乱する主人公と読者。疑心暗鬼となり精神が衰弱していった主人公が導き出した結論とは?

 

 

総評

あまりに完璧に現実世界を再現できてしまう(都合のいい)装置の存在によって途中から頭がこんがらがってきました。しかも主人公がその後どうなったかは描かれておりませんので、はたしてどこまでが現実でどこからがVRだったのか境界線が引けない感じになっています。

序盤からあった伏線も結局回収されぬまま終わってしまうので、読後もなんとなくモヤッとした状態を引きずってしまうのですが、そういう意味では表と裏の区別がない物体の「クラインの壺」というタイトルどおりの内容といえるのではないでしょうか。

設定や話の流れは世にも奇妙な物語や星新一の小説っぽい雰囲気を持っていますので、それらの作品が好きな方は特に楽しめる小説だと思います。

めずらしく文庫本よりKindleのほうが値段が高く設定されています。

これまでに読んだ小説一覧

記事下関連コンテンツユニット



 - 書籍紹介