岡嶋二人の小説「クラインの壺」を読んだ感想

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クラインの壷 (新潮文庫)

クラインの壷 (新潮文庫)

ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!

1989年に井上泉と徳山諄一のコンビによって書かれた小説で、この作品が岡嶋二人の最後の作品となっております。

 

クラインの壺とは?

メビウスの輪の四次元バージョンのもので、3次元で無理やり表現すると壺のような形をしているため英語では「Klein bottle」と呼ばれています。

メビウスの輪のように表と裏の区別がなく、一方向に進んでいくと表を進んでいるつもりがいつのまにか裏にいてまた表に戻るという不思議な筒でできています。

クラインの壺-Wikipedia

 

SF設定下でのミステリー

映画マトリックスのコンピュータが作り出した仮想現実のように、完全に現実と区別がつかないレベルのVR(ヴァーチャルリアリティ)を体感できる「クライン2(K2)」と呼ばれる装置が登場します。

この小説が書かれた1989年はAIどころかインターネットもまだ一般的ではない時代でしたし、作中でも言及されていますがパソコンの記憶容量が1MBとかの時代らしいです。いまでこそVRは身近なものになりつつあり、高度なVRも実現の可能性が見えてきていますが、この時代からしたら現実とまったく区別がつかないVRなんて完全にSFですね。

全身を包むスポンジラバーと呼ばれる物質により人の皮膚と直接情報をリアルタイムで入出力することで、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感すべてを完全に再現するという仕組みですが、理屈はともかく、とにかくあまりにも完璧なVRなので現実とまったく区別がつかない装置があるという設定を踏まえたミステリーとなっております。

 

リアルとヴァーチャルの区別がつかなくなる恐怖

アーケードゲーム機の試作機としてクライン2を体験する主人公が、ある不審な出来事をきっかけにクライン2を開発した会社「イプシロン・プロジェクト」を疑い始めます。「本当にこれはただのゲーム機なのか?」調べを進めていくうちにますます深まる疑惑。そして、イプシロン・プロジェクトの正体を暴くべく極秘の研究施設へ潜入を試みる…。

終盤のこのあたりの展開がなかなか緊迫感があって楽しいです。いったい何がリアルで何がVRなのか?リアルとVRの境界があいまいになる恐怖を味わってください。そして、精神が衰弱し疑心暗鬼になった主人公が導き出した結論とは?

 

総評

リアルとヴァーチャルの区別がつかないので途中から頭がこんがらがってきました。振り返ってみても、どこからどこまでがヴァーチャルだったのかよくわからないです。

序盤からあった伏線も結局回収されぬまま終わってしまうので、読後はなんとなくモヤッとした状態を引きずってしまうのですが、そういう意味では表と裏の区別がない物体の「クラインの壺」というタイトルどおりの内容といえるのではないでしょうか。

設定や話の流れは世にも奇妙な物語や星新一の小説っぽい雰囲気を持っていますので、それらの作品が好きな人は特に楽しめる小説だと思います。

クラインの壷 (新潮文庫)

クラインの壷 (新潮文庫)