探険時代を経て地球から火星へ入植した際、人類は単純労働力および緊急時のたんぱく資源として、高度に進化したカンガルーを大量に送り込んでいた。が、カンガルーたちは徐々に自我を育み、人間たちよりはるかに火星の土地になじんできていたのだった。そして……地球におけるカンガルーの種類が全て滅んだとき、彼らは自ら正真正銘の火星人であることを名乗り、地球人への反攻を開始した! 火星を舞台に、雄大な宇宙観と構想により展開する日本SFの金字塔!
近未来、人類は火星をテラフォーミングして人間も動物も生存できる環境を整えられる技術と遺伝子操作や外科的処置により生体改造もできる科学力をもっているという前提で、火星に移住した人間と遺伝子操作により人間並みの知能を得たカンガルーとの戦いを描いた1984年初版のSF小説です。
ファンタジックなSF
前半は殺伐とした戦況が描かれますが、次第にスピリチュアルな展開を迎え、途中からはSFを通り越してファンタジーな話になっていきます。なのでハードSFファンにはちょっと物足りないかもしれません。個人的にはファンタジックな展開には多少違和感を覚えましたもののまあ許容範囲かな。
なんとなく映画「アバター」っぽい話
戦場で瀕死の重症を負った主人公の部隊が特別に強化されたガルーの肉体に移植され、ガルーになりすまし敵地に潜入するというあたり、2009年の映画「アバター」を彷彿とさせます。1984年にすでにアバター的な内容の小説があったんだ〜と素直に感心しました。
ほかにもアバターとの類似点はありますが、ネタバレになりそうなのでここでは伏せておきます。実際に読んで確かめてみてください。
多少ミステリーチックな部分あり
地球出身のカンガルーがなぜ自らを火星人と称するのか?唐突と思われた彼らの主張にも実は根拠があり、後半部分でそのあたりの謎が解明していきます。ただ、論理的な解答は用意されておらずかなりスピリチュアルなものなので、そういうものとして受け入れるしかありません。個人的にはもっと「なるほど!」と思わせる理由があればよかったなと思いました。
総評
ありきたりな設定ですが、今でも似たような設定で新たな作品が作られていることもあり古さは感じませんでした。
結末は時代を反映しているといいますか、今読むと当時の時代を感じるものとなっておりますが、内容については今読んでも十分楽しめるものとなっています。
平易な文章で書かれており、複雑な心理描写や細かい情景描写はありませんのでまるで映画を観ているかのように最後までサラッと読めます。SF小説に興味はあるけどあまりハードなものはちょっと苦手という人にぴったりのライトなSF小説だと思います。
映画のアバターっぽい話ですのでアバター好きの方にもおすすめです。