有人火星探査が開始されて3度目のミッションは、猛烈な砂嵐によりわずか6日目にして中止を余儀なくされた。だが、不運はそれだけで終わらない。火星を離脱する寸前、折れたアンテナがクルーのマーク・ワトニーを直撃、彼は砂嵐のなかへと姿を消した。ところが――。奇跡的にマークは生きていた!? 不毛の赤い惑星に一人残された彼は限られた物資、自らの知識を駆使して生き延びていく。宇宙開発新時代の傑作ハードSF
概要
アメリカでは2015年10月、日本では2016年2月に公開された映画「オデッセイ」の原作となったSF小説です。私は普段SFはあまり読まないのですが、これはとても面白かったです。
ジャンルとしてはサバイバル系のSFとでもいいましょうか。主人公の、エンジニア兼植物学者でもある宇宙飛行士マーク・ワトニーがひとり火星に取り残されてしまい、助けが来るまで持てる技術や知識を最大限生かして生き延びるという話です。
ログエントリー、シスオペ、ラップトップなどのコンピュータ関連用語が出てくるので最初は読みにくかったですが、そういった専門用語を除けば文章自体はくだけた表現が多く、ハードSFが苦手なわたしでもすんなりと読み進めることができました。とくに理系の人は受け入れやすいと思います。
ヒットのきっかけ
作者のアンディ・ウィアーは元々プログラマでした。この小説は、自身のサイトに連載したものを読者の要望に応えてkindleにて出版したものです。作者もまさかこんなに大ヒットするとは思っていなかったんでしょうね、価格はなんと1ドル以下の99セントというkindle本の最低価格で出版しちゃいました。(残念ながら日本語版のkindle本は普通に1,000円以上しましたけど…。)
アンディ・ウィアーはこの小説のヒットをきっかけに本格的に作家へと転身しました。
主人公のワトニーがとてもユニークで魅力的
タイトルに反していわゆる火星人は登場しません。登場人物はすべて地球人です。人間同士の抗争などはなく登場人物は基本的にみんな仲間、しかもいい人ばかり。わたしは人間同士の醜い争いというのがどちらかというと苦手なので、不快な気分にさせる悪役がでてこない点は好感が持てました。
敵はあくまでも自然というか環境であり、火星の過酷な環境がワトニーの命を奪うべく、これでもかというくらい容赦なく襲い掛かってきます。とにかく次から次へと休む間もなく問題が発生するので、その度にワトニーが命の危険にさらされるわけですが、それらの問題をワトニーが知恵を振り絞っていかに解決していくのか?ということろが最大の見どころとなります。
また、ワトニーの性格が非常に魅力的で、深刻な状況下でもあきらめることなく前向きに考え、ピンチを切り抜けて行く様は読んでいて気持ちがいいですし、シリアスな場面であえてふざけたり、下ネタをぶっこんできたりと憎めないキャラの持ち主で、ついつい応援したくなってしまうのです。
映画を見た人もぜひ原作を読んでほしい
映画のほうは時間の制約や倫理上の問題(?)でカットされている場面がありますので、すでに映画を観た方もこちらの原作も読めば新しい発見もあって楽しめるのではないでしょうか。
もちろん映画を観てない方にも断然おススメの小説でございます。ハードSFを避けている人にも毛嫌いせずぜひ一度読んでほしい作品です。