三菱自動車のリコール隠しをテーマとした小説「空飛ぶタイヤ」を読んだ感想

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空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)

トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも…。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族…事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族・仲間とともにたったひとつの事故の真相に迫る、果てなき試練と格闘の数か月。

つい先月、燃費データ不正が発覚した三菱自動車が過去に行った「リコール隠し」をテーマにした小説です。

冒頭から辛い…重いテーマ

走行中に脱落したホープ自動車製トラックのタイヤが歩道を歩いていた母子に直撃し母親が亡くなるというショッキングな事故。

病室でベッドに横たわり二度と目を覚ますことのない母親…。残された夫の回想と小さな息子との会話のシーンから始まるのですが、とにかくつらい。あまりにつらいシーンから物語はスタートします。

突然母親を亡くした6歳の息子の気持ちを思うと胸が締め付けられる思いでした。10ページにも満たない序章を、眼をそむけたくなる気持ちを抑えてなんとか読みました。

普段から、こういった人が亡くなる事件や事故のニュースは気分が沈むので、なるべく見ないようにしている私としてはフィクションとわかっていても非常に辛かったです。

その後は事故を起こした会社の社長とホープ自動車側の人と警察の視点、あとは池井戸潤お得意の銀行員視点で描かれていくので、普通に読み進められましたが、時々被害者の親子が登場するときはやはり涙なしでは読めませんでした。特に後半に出てくるクリスマスのシーンは、号泣のあまり途中から読み飛ばさざるを得ないほどの悲しくて辛いシーンでした。

安定の池井戸潤品質

池井戸潤の作品はだいたいパターンが決まっており、「悪役の大企業に対し立場の弱い中小企業が果敢に立ち向かっていき、幾多の困難を乗り越えつつ最終的には打ち負かす」という王道の勧善懲悪ドラマですが、この「空飛ぶタイヤ」も例にもれず、ひどい仕打ちにあい窮地に追い込まれても、「半沢直樹」よろしく最後には必ず勝利をおさめますのでその点は安心して読めます。

一部の登場人物は池井戸潤の作品ではお決まりですが、昔の刑事ドラマのようにあだ名で呼ばれていたり、セリフが芝居がかっている分リアリティに欠ける部分もありますが、さすがは直木賞受賞作家、構成がうまく読みやすさは抜群です。事故を起こした赤松運送社内の話も青春ドラマのような熱さで、胸にこみあげてくるものがありました。個人的にはこういうドラマじみた演出は嫌いじゃないです。

池井戸潤の小説はこれまで10冊ほど読みましたが、池井戸潤ってよほど大企業が嫌いなのか大企業側の人物をこれでもかっていうほど醜悪に描きますし、元銀行員だけあって銀行内部の話も必ずといっていいほど絡ませてきます。

今回も銀行内部の争いが詳細に書かれていますが、正直この銀行内部の話は不要では?と私は思いました。

三菱自動車の体質がよくわかる!?

作中のホープ自動車は過去のリコール隠しに懲りず、同じ過ちを繰り返してしまいます。ユーザーのことなど考えず絶えず自身の保身に傾倒し、ちょっと誇張しすぎのような気もしますが、大企業の論理をかざしてはその傲慢さをいかんなく発揮します。

今回の燃費データ不正は命にかかわるものではありませんので、過去のリコール隠しと同列に扱うべきではないかもしれませんが、一部の不正を働いた人たちのせいで「結局ユーザーの利益より自社の利益を優先する不誠実な会社」という悪いイメージを世間に与えてしまったのは非常に残念に思います。

あくまで小説ですので、フィクションとはわかっているのですが、実際に三菱自動車も事実、不正を繰り返しているのですから当たらずとも遠からずと言われても仕方がないでしょう。

重いテーマではありますがドラマチックで面白い小説ですので、読んで損はないと思います。