その地に着いた時から、地獄が始まった――。1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。そして現代の東京。ケイと仲間たちは、政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す! 歴史の闇を暴く傑作小説。
戦後、外務省にだまされて移民政策ではなく棄民政策の犠牲になった日系アマゾン移民の悲惨な生活とのちの復讐劇が描かれたお話です。
前半は移民の悲惨な状況が描かれている
前半の上巻はアマゾンでの過酷な生活を中心に描かれています。前半部分の主役である衛藤がアマゾンの奥地でどのような生活を送っていたか、そこから抜け出したあとどう生き抜いてきたかが描かれるとともに、当時の外務省の移民政策がいかに杜撰であったかが浮き彫りになります
外務省にだまされすべてを失いながらも懸命に生きていた衛藤は、同じ移民の生き残りであり、かつての友人の子でもある少年のケイを引き取り一緒に生活を始めます。
お互い壮絶な過去を引きずりながらも家族とともに幸せに暮らしていたふたりは、ある悲しい出来事がきっかけで心の奥でくすぶっていた外務省への復讐の炎が再び燃え上がり、同志の協力を得て復讐を企てることになります。
そしていよいよその復讐劇の幕が上がる直前のいいところで上巻は終了。
上巻で特に印象に残ったのが、自分と一緒になったばっかりに辛い思いをさせてしまった妻に対して、絶望の中思わず発してしまった衛藤の「すまない……おれなんぞ、生きている価値もない」という言葉でした。自分のせいで大切な家族を不幸にしてしまったという自責の念にかられた衛藤の心中を思うと、なんともやるせない気持ちになりました。
後半は憎き外務省への復讐劇
下巻は実行犯であるケイによる復讐劇の一部始終とともに主要人物が過去にケジメをつける部分が描写されています。
テンポよく話が進む上巻に比べると、下巻は若干冗長に感じられるところがあるものの、主要人物が復讐劇の中でそれぞれの過去の呪縛から解放されるシーンが描かれていたり、ひとりそれほど復讐心を持っていなかったはずの人物が復讐劇の手助けをした理由が明らかになったりと、ボリューム満点な内容かつカタルシスを感じられるパートでもありますので、ページをめくる手が止まりませんでした。
総評
外務省の移民政策について事実にもとづいて描かれた話で、著者自身によるブラジルとコロンビアの現地取材が生かされており、現地の様子が詳細に描かれております。前半はテンポよく、後半はエンタメ性に富んでおり、いずれも読みやすく、かなりの長編小説にもかかわらず最後まで一気に読めました。
戦後の移民政策の裏側が如実に描かれており、憤りを感じるとともに、いまでも南米に数多く暮らしている日系人の祖先たるブラジル移民の生活や移民政策の実態を知ることができ、とても興味深い内容でした。
戦後の外務省による移民政策の裏側を知りたい方はもちろん、純粋にエンタメ小説を求める方にもおすすめの「一読の価値あり」な小説です。