貴志祐介のサイコホラー小説「悪の教典」を読んだ感想

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき―。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。

海猿で有名な伊藤英明主演で2012年に映画化された小説です。映画のほうはやはり時間の制約上省略されているシーンが多いようです。映画の方は観ておりませんが、当時のテレビCMの影響により「悪の教典=伊藤英明」という印象が強く、しかも伊藤英明のビジュアルが主人公の蓮実聖司のイメージにぴったりなため、蓮実聖司の表情やしぐさを鮮明にイメージすることができました。

 

バイオレンスサイコホラー

2011年の「このミステリーがすごい!」に選ばれておりますが、あまりミステリー要素はなくどちらかというと殺戮描写がメインのバイオレンスサイコホラーです。

ただほとんどの殺戮シーンは比較的あっさりと描かれているおかげで、グロテスクな描写が苦手な私でも気分が悪くなることはほとんどありませんでした。とはいえ中には痛々しい描写も含まれておりますので、そういうのが苦手は心しておいたほうが良いです。ちなみに映画のほうはR15指定です。

共感や良心の欠如したサイコパスであり、シリアルキラーの蓮実聖司が主人公です。

サイコパスとは?

精神病質と呼ばれる反社会的人格の一種で、表面的には社交的で口が達者なため一見魅力的ではあるが、良心に乏しく他社への共感が欠如しており冷酷な性格を持つ人格あるいは人物のことを指す。

作中の蓮実聖司もまさにそんな人物で、イケメンで頭が良くて社交的、教育熱心で思いやりがある振る舞いをするため生徒から絶大な人気があり、職場での信頼も厚い。理想の教師像を体現するすばらしい人格者のように見えて、実は他人を意のままに操ることに喜びを見出しつつ思い通りに動かない者や自分にとって都合の悪いものを容赦なく排除していく異常者なのです。

人は誰しも聖人君子ではありませんから、自分にとって都合の悪い人物に対し「コイツさえいなければ…」と呪う気持ちが沸き立つことはあると思いますが、普通は妄想することはあっても実行には移しませんよね。でもサイコパスである蓮実聖司は邪魔だと思えば実際に行動に移し、目的を達するためには手段を選ばす、殺人に対するハードルが異常に低いのです。普段の行いがよく世間体がすこぶる良いので犯人として疑われることがなく、かつ非常に頭が切れるためにいともたやすく完全犯罪を成し遂げることができるゆえに、気づかぬ間に次々と犠牲者を出してしまうのです。

全然ジャンルは違うと思いますが、頭脳明晰な殺戮者の加害者目線で話が進むところは漫画のデスノートみたいだなと思いました。

 

平穏な学園ドラマと思いきや最後は地獄絵図に

序盤はありふれた日常を描いた学園ドラマで、これはこれで普通に面白いと思いました。日常のなかで蓮実聖司の本性が徐々にあらわになっていき犯行を重ねていきますが、ある犯行時に犯したミスにより不審な行動が複数の生徒に露呈してしまいます。追い詰められてごまかしがきかない事態に陥ったと判断するや否や校内にいる人間を皆殺しにすることを決意し、ついに後戻りできなくなってしまう。生徒を命がけで守ろうとする教師、大切な仲間のかたきを討とうとする者、知恵を絞って生き延びる方法を考える生徒…果たして狡猾で残忍な殺人鬼から逃れることができるのか?

 

異常な登場人物が多すぎ

主人公(?)の蓮実聖司に負けず劣らず異常な教師・生徒が多数登場します。生徒に暴力をふるう教師、強制わいせつする教師、淫行する教師、同性愛者、麻薬常習者、いじめなどなど盛りだくさん。こんないたるところで異常者が跋扈する学校はイヤすぎると思いつつ、個性的なキャラから目が離せません。

 

頭脳戦は消化不良

ちょこっとだけ殺人鬼の蓮実聖司と知恵者の生徒の頭脳戦のようなものが描かれており、知恵者の生徒があるトリックで蓮実聖司をまんまと出し抜くシーンがあります。ただ、そのトリックは勘の鈍い私でも「この方法しかないよな」といえるほど単純なものでした。頭脳明晰な蓮実聖司がこんな安直なトリックになぜだまされたのかが私にとって最大のミステリーでした。あれだけ他人の考えていることが手に取るようにわかる人物がこんなのにひっかかるかな的な。もっと裏の裏をかくような頭脳戦を期待したがために正直ここだけちょっと残念でした。

 

総評

暴力的描写の多いホラーですが恐怖心をあおる描写は少なく、サイコパスの蓮実聖司がどうやって邪魔者を排除するのか?という部分に重点を置いた話の流れとなっていますのでそれほど怖さを感じませんでした。

サイコパスの主人公にはまったく共感できないものの、なぜだかついつい読みたくなる不思議な小説で、上下2巻に分かれておりボリュームたっぷりですが、あっという間に読み切ることができました。

ミステリーを求める方にはおすすめできませんが、サイコホラー好きの方にはおススメの一冊となっております。

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)