大学施設で女子大生が連続して殺された。現場は密室状態で死体には文字状の傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手の結城稔。被害者と面識があった上、事件と彼の歌詞が似ていたのだ。N大学工学部助教授・犀川創平とお嬢様学生・西之園萌絵が、明敏な知性を駆使して事件の構造を解体する!
S&Mシリーズの4作目となる作品です。
今回は身近な場所で事件が起こります。犀川と萌絵が所属するN大(=名古屋大学)と犀川が非常勤講師を勤めることとなったS女子大(椙山女子学園大学)がおもな舞台となっており、非常にこじんまりしています。
四季の研究所や三ツ星館などの特殊な建築物は登場しませんし、特に際立った個性を持った登場人物も見当たりません。
事件のトリックについてはなるほどねとは思ったものの、総じて非日常感に乏しくインパクトにかけるものでした。
萌絵がひとりで頑張るも空回りしてしまう
大学3年生となり自らの進路に悩むなか、自分が知らない犀川の側面を垣間見ることで、自分が一番近くにいると思っていた犀川がはるか遠い存在に感じられたりと萌絵の不安定な内面にスポットを当てた話が中心となります。
犀川が中国へ出張中ということもあり、萌絵が単独で事件解決に乗り出すのですが、やはり犀川ほどの切れ味を見せつけることはできませんでした。犀川が帰国するまではだらだらと時間が過ぎていく感があります。
犀川の帰国後は、一気に事件は解決に向かいますので、犀川が帰ってくるまでの辛抱するしかありません。
やっぱり犀川と萌絵のやりとりが楽しい
そんな中でもユニークな場面がいくつかありました。萌絵の「煮物のような方ですね?」とか犀川の「ジョークの燕返し」が個人的にはツボでした。
その他の事件としては、萌絵のプロポーズ?でしょうか。でもあまり期待せずに読んでください。(笑)
個人的にお気に入りは、ラストの犀川による「夢と希望の違いは?」に対する答えを考えるシーン。あきらかに前作から心情の変化が感じられるもので、犀川の願望がにじみ出ていて好印象でした。
総評
S&Mシリーズにしては、特筆すべき事件もなく全体的に平凡でミステリィとしては物足りない印象でした。犀川と萌絵のラブラブ感は良かったですけど、コアなファンでない限り読まなくてもいいかなと思える内容でした。
犀川と萌絵が好きすぎて、ふたりの関係の変遷がどうしても気になる人(わたしです)や、シリーズ物は全作読まないと気が済まない人以外は、本書はパスして次作の封印再度を読むことをおすすめします。