【S&Mシリーズ】6作目「幻惑の死と使途」を読んだ感想

      2016/12/28

天才マジシャン、死してなお奇跡を呼ぶ――
事件は、奇数章だけで描かれる。

「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻(ありさとしょうげん)が衆人環視のショーの最中に殺された。しかも遺体は、霊柩車から消失。これは匠幻最後の脱出か?幾重にも重なる謎に秘められた真実を犀川・西之園の理系師弟が解明する。

S&Mシリーズの6作目です。今回は奇術(マジック)がテーマとなっております。

次作の「夏のレプリカ」と同時期に起きた事件であり、この2作はペアとなっています。

本書は奇数章のみ、次作の夏のレプリカは偶数章のみでそれぞれ構成されており、本来1冊にまとめられるべき作品をあえて2冊に分けたという体で描かれております。

ただ、あえて同時期に起きた事件として描かれる必要のないほど、互いの事件は交わることなく独立しておりますので、両方読まないと謎が解決しないということはありません。

実際、私も最初は「夏のレプリカ」を飛ばしてシリーズを読み進めましたが、なんら支障はありませんでした。単に「現実の事件は同時多発的に起こりうるものだ」ということを表現するためだけにこういった構成になっているようです。

 

全然関係ないですけど、犀川と萌絵が住む架空の都市「那古野」(名古屋のこと)がどうしても「辺野古」に見えてしまうのは私だけでしょうか。

 

犀川が新車を買う

故障して修理工場に預けていた愛車のシビックが実質的に修理不可能であることがわかり、車を買い替えることとなりました。

車にこだわりがない犀川はめんどくさくなって、萌絵に車選びを丸投げします。萌絵はポルシェを猛プッシュしてくるも、購入したのはルノーのトゥインゴと推測される130万円の輸入車でした。萌絵の2シーターのアルファロメオと違い、実用的なコンパクトカーですが、左ハンドルのマニュアルトランスミッションというかなりマニアックな車です。

作者の森博嗣はコアな鉄道マニアのようですが、このシリーズ以外の作品にもエンスーな車が時折登場することからも車もかなり好きなようです。

 

萌絵の親友「蓑沢杜萌(みのさわともえ)」登場

このシリーズは主役の犀川&萌絵を筆頭に天才キャラが次から次へと出てきますが、今回登場する萌絵の高校時代の同級生であり親友の杜萌も例外ではありません。萌絵にはかなわないものの、T大(東大)の大学院生というエリートであり、萌絵と2年ぶりに再会したときに喫茶店で”エアチェス(Air Chess)”ができるほどのかなりの秀才です。

エアチェスとは、チェス盤も駒もない状態で行うチェスで、はたから見ればただふたりが意味不明なことをしゃべっているだけという、超人的なゲームです。

惜しむらくは、杜萌が本書と「夏のレプリカ」の2作品のみにしか登場しないことです。萌絵や犀川とのからみがもっと楽しめると思っていたので残念です。

ちなみに次作の「夏のレプリカ」は杜萌が巻き込まれた事件が中心となりますので、杜萌が気になる方は「夏のレプリカ」もワンセットで読むことをおすすめします。

 

Gシリーズの主役「加部谷恵美(かべやえみ)」が登場

時系列的にこのS&Mシリーズの実質的な続編となる「Gシリーズ」の主役のひとりである加部谷恵美が登場します。このときはまだ中学生。

本書での萌絵との出会いをきっかけに、萌絵に憧れることとなり、すでに大学生となったGシリーズでは、あこがれの存在である萌絵に代わり探偵のまねごとをしています。

 

マジックの本質を表現したトリック

マジックには、派手な演出の脱出ものから、こじんまりとしているものの手先の器用さで魅せるテーブルマジックまでさまざまな種類のものがありますが、共通して言えるのが「観客の心理をコントロールする」ということだと思います。観客の心理(意識や視線)を上手にコントロールできるから、見られたくないことや気づいてほしくないことを隠すことができ、マジックという不思議な現象が成立するのだと思います。

今回は理系に全く関係ない地味なトリックでしたが、観客の心理をコントロールするマジシャンらしさはうまく表現されていました。

まあ作者自身も読者も、もはやトリックの内容はあまり重視していない節がありますのでなんでもいいんですけど。

それより、今回は萌絵の成長というか変化を描くための回だったように思います。

 

萌絵が自力で事件を解決する?

そういうわけで、萌絵がひとりで事件を解決しようと必死に走り回ります(そして、やっぱり危険な目に遭います。いい加減学習してくれ)。真相には迫ることができなかったものの、トリックは自力で見破ることができました。

ラストの萌絵による推理開陳シーン。自力で謎解きができたことがよほどうれしかったのか、とてもコントじみていて思わず笑ってしまいました。

自信満々で推理を披露したものの、最終的には犀川によって腑に落ちる説明がなされました。ただ、それでも「これがきっと正解だよね?」と皆が納得しただけであって、結局本当のところはわからないままという、いまいちスッキリしない終わり方でした。

個人的には犀川と萌絵のラブコメをたっぶり堪能できましたので満足しています。

 

総評

今回はマジシャンの有里匠幻という「天才」が登場するS&Mシリーズらしい内容でした。真相がうやむやになってしまったことは残念ですが、ファンにとってはいろいろお楽しみ要素が盛り込まれていて満足できるないようでした。

ただ、本書はシリーズ通して読んでいる方が楽しめる内容であって、いきなり本書だけ読んでも面白さがわからないと思いますので、読者を限定する作品ではあります。

S&Mシリーズが好きならいろいろ楽しめると思いますので、読んで損はないでしょう。

 

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